第16章 最後の悪あがき
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数十分の時が流れた。2人の間にはとても気まずい空気が漂っていた。無理もない、鬼道にとっては花織の気持ちを無視しての行動だったし、花織にとっては許されない行為であったからだ。ベンチに腰掛ける2人の間にはわけもなく空間を挟み、何となく距離を隔てていた。
沈黙の時間がしばし続いたのち、口を開いたのは鬼道だった。
「悪かった……、妙な真似をして。……取り乱していたんだ、お前を見たら堪えられなかった」
「……いえ、私も。拒めませんでしたし」
酷い女だ、花織は思う。彼女は今自己嫌悪の波にのまれていた。もっと自分の心が強ければ、鬼道を抑えることができたろうに。花織はぎゅっとスカートを握り締め、俯く。
「花織、俺の話を少し聞いてくれないか」
鬼道が花織の手に自分の手を重ねて問いかける。彼女は顔をあげて鬼道を見た。まだ彼はゴーグルをつけていない。赤い瞳が真っ直ぐに花織を見つめていた。
……今は考えていても仕方ないか。今日は鬼道に呼ばれてきているのだ。それに鬼道のことが心配でここまで来たのだから彼の申し出を断る謂れはない。
花織がこくりと頷くと、鬼道はありがとう、と微かに笑ってフィールドの方へと視線を向けた。
「俺は5歳の時に飛行機事故で両親を亡くし、しばらく孤児院で過ごしてから鬼道家に引き取られた。影山総帥の推薦によって、だ。……俺は父の影響でサッカーを始めたんだが、それが総帥の目に留まったらしい」
鬼道の話し始めた話題に花織は大きく目を見開いた。以前、花織が帝国にいたころに聞かせてくれた鬼道の身の上話は完全に過去を覆い隠したものだった。だが、今回の話はそうではないようだ。
「鬼道さん……?」
「今まで俺の身の上を俺は誰にも話さなかった。他に弱みを見せたくなかったからだ。それに誰も知る必要がないと思っていた。だが俺がこれを話さなかったせいでここまで話が拗れたんだろう」
鬼道は花織にすべてを包み隠さず話すつもりだった。今までの経緯、自分の想いを改めて。……誰よりも自分を知ってほしかった女性に。