第16章 最後の悪あがき
「でも、約束が」
「反故にしてもかまわないから。きっと俺が鬼道の立場だったら、花織に来てほしいと思うはずだ」
「でも……」
「花織」
その声色は花織に有無を言わせなかった。毅然とした風丸の表情に花織は少し怯む。じっと自分を見つめている彼に花織は頷くしかなかった。
「……分かった。じゃあ少し出てくるね。春奈ちゃん、あとをよろしく。皆にも上手く伝えておいて……」
しぶしぶながらの了承を花織は呟いた。
***
花織は簡単に身支度を整えると部室を飛び出していった。花織を見送り、部室に残された風丸に春奈がそっと声を掛けた。
「あの、風丸先輩」
「どうした音無?」
恐る恐る風丸の顔を覗き込んでくる春奈に風丸は全く動じもせずに答える。そろそろ休憩を終え、練習に戻ろうと肩にかけたタオルを外し、手に持った。
「私が言える筋合いはないんですけど……、よかったんですか?行かせちゃって……」
「……いいんだ。花織は俺より鬼道と一緒に居るべきだと思うからな」
花織の出ていった扉を、どことなく寂しげな表情で風丸は見つめた。見ているほうが切なく、苦しくなるような表情。春奈は居た堪れなくなって風丸の横顔に言葉を掛ける。
「そんなこと、ないと思います」
「え?」
風丸がポニーテールを揺らして春奈を振り返った。春奈は複雑そうに微笑を浮かべながらも風丸を真っ直ぐに風丸の目を見据えていった。
「私、お兄ちゃんと花織先輩にくっついてほしいと思ってます。……でも、風丸先輩と花織先輩は本当にお似合いだと思ってます。花織先輩も風丸先輩といる時は特別楽しそうですから……、だから、お兄ちゃんと一緒にあるべきだって決めなくてもいいと思います」
一瞬、静寂が訪れた。風丸は思いにもよらない言葉を掛けられたようで大きく目を見開く。少しだけ困ったような表情をのぞかせたように思えたが、彼は穏やかな微笑を浮かべて春奈に礼を告げた。
「そうか……。ありがとう音無、そういってくれると少し気が楽になる」