第16章 最後の悪あがき
『会いたい。いつもの場所で待っている』
それはとても短いメールだった。だが、風丸の、そして花織の心を動揺させるには十分なメールだった。どんな心境で彼が今メールを送ったのかは分からない。だが、今彼が花織を求めていることは確かだった。
「花織……」
風丸がどうするのかを催促するように花織の名を呼ぶ。花織はぱたんと携帯を閉じて鞄の中に戻した。そして、少し俯き気味に静かに首を横に振る。
「行かないよ……私、行けないから」
「そんな、花織先輩っ!!」
花織が静かに述べた言葉に春奈が花織の腕を掴む。彼女もまた悲しげな表情をして花織を見つめていた。
「お兄ちゃんに会ってあげてください……!お兄ちゃん、今どんな気持ちでいるか……。きっと今とても辛いと思うんです!一人じゃ押しつぶされそうだから、花織先輩を呼んだはずです!」
春奈が悲痛な声を上げる。だが花織はその頼みを聞くわけにはいかなかった。鬼道への想いを早く打ち消して、風丸に答えるためにも今ここで鬼道に会ってはいけないと感じていた。また静かに横に振る。
「……私、一郎太くんと約束したから。もう鬼道さんとは2人きりではあわないって。鬼道さんもそれは知ってる。……だから春奈ちゃんが代わりに」
「それじゃ意味がないんです!お願いします、会ってあげてください!」
春奈が首を振って否定し、頭を花織に深々と下げた。春奈ではだめなのだ、今鬼道が欲しているのは花織で、妹である春奈では到底埋められないものなのに。しかし花織の決意も固かった。鬼道が心配なのはもちろんだが、それにこたえることはできない。
「行ってやれ、花織」
頑なに鬼道の元へと行こうとしない花織に静かで、落ち着きを払った声が呟いた。花織が驚き、振り返ると柔らかい笑みを浮かべた彼が花織を見つめている。
「一郎太くん……」
「俺のことなら気にしなくても構わない」
花織は困惑した様子で風丸を見やる。花織は鬼道を振ると過去に言った。それなのにどうして風丸は花織を鬼道の元へ向かわせようとするのだろう。とても不可解なことだ、花織にとっては。