第16章 最後の悪あがき
花織が差し出したタオルで彼は手をふき、保冷バッグの中から一つおにぎりを取る。彼の髪と同じ青色のアルミホイルで包まれたものだ。ゆっくりとアルミホイルをはがせば形の良い海苔の巻かれたおにぎりが姿を現す。
「じゃあ、花織。頂くぞ」
「うん。どうぞ召し上がれ」
結構豪快に口を開けて、風丸はおにぎりを口にする。花織はゆっくりと咀嚼を繰り返す風丸を見つめて微笑んでいる。飲み込んだと同時に彼は花織に笑顔を返してくれた。
「うん、美味いよ。花織」
「本当?……おにぎりだからあまり手の込んだものってわけじゃないけど……、それでも嬉しい」
彼が食べたのはおかかのおにぎりだったようだ。その後も彼の言葉通りにおいしそうに食べてくれている。花織はじっとその様子を見ては微笑んだ。風丸がそんな花織の様子に頬を掻き、ほんのりと頬を赤くする。
「あの、花織……」
「ん、なあに?」
「そんなに見られると恥ずかしいんだが……」
それを口に出すことも恥ずかしかったのか、風丸は照れたように視線を逸らす。花織は膝に置いた保冷バッグに視線を向けるとぎゅっとそれを握った。彼女の頬も少し赤い。
「ご、ごめんね……。あまりに一郎太くんが美味しそうに食べてくれるから、つい……。ねえ、一郎太くん」
「なんだ?」
花織が今度は桃色のアルミホイルに包まれたおにぎりを風丸に差しだす。彼がそれを受け取ったのと同時に、今風丸が食べたおにぎりを包んでいたアルミホイルを受け取った。そしてじっと彼を見つめる。
「またこうやって私が何か作ったら、食べてくれる?」
「……」
風丸は新たなおにぎりを受け取ると少しだけ俯く。もうきっとこうやって彼女が自分の為に何かを作ってくれる機会はないだろう。準々決勝は間近に迫っている。もうきっとこうやって彼女に何かを作ってもらうどころか、一緒に練習をすることさえもが最後かもしれないのに。
すぐに答えなかった風丸に不安げに花織が表情を陰らせる。迷惑だったかと、とても心配になったのだ。そんな花織を元気付けるように風丸は作り笑いを浮かべた。
「ああ、もちろんだよ」
安心したような彼女の微笑みを苦しいほど胸に刻みながら。