第16章 最後の悪あがき
「じゃあ、伸ばすね。また一郎太くんと御揃いにしたいから」
「……そ、そうか」
今度は花織がバカップルのようにいちゃいちゃと言葉を交わす。しかし風丸は花織とこんなふうに言葉を交わせるのもあと数日なのだと思うと胸の中に何かがこみ上げた。
花織はそんな風丸には気が付かず、突然あっと声を上げて脇に置いていた鞄のふたを開ける。
「そういえばね、今日はあるものを持ってきたの」
「あるもの?」
風丸が不思議そうに首を傾げる。花織が取り出したのは保冷バッグだった。その中から、アルミホイルに包まれたおにぎりを風丸に差し出す。
「練習したらお腹すくでしょ?……たまにはこういうのもいいかなあって思って。おにぎりを作ってきたの」
「お、俺にか?」
「うん。みんなは雷々軒なんかに寄り道してるけど、一郎太くん、いつも私に付き合ってくれてるからお夕飯までお腹すいたままでしょ?」
常々思っていた。育ちざかりの年頃なのだ、花織ですら帰宅する頃にはおなかがすいて仕方がないのに、彼女よりも運動量の多い風丸の空腹感はもっと大きいだろうと思っていた。さすがに花織はいくらお腹がすいていても寄り道をしてまでラーメンを食べる、なんてことはできない。だからこそのおにぎりだった。
「梅干しに鮭、おかかに昆布……。あとから揚げなんかも入れてみたんだけど……よかったら食べない?あ、もちろん塩むすびもあるよ」
「さすがに量が多くないか……?」
保冷バッグに入っているおにぎりのラインナップを述べている花織に、風丸が困ったようなそれでも微笑ましいというように笑う。花織もふふっと笑って風丸を見た。
「うん、でも一郎太くんは何が好きかわからなかったからとにかくいっぱい作ってみたの。余ったら私のお夕飯にするし、全部食べても食べなくても大丈夫だよ」
「そうか……。ありがとう、花織」
「いいの、私が一郎太くんに食べてもらいたくて作っただけだから。……はい、お手拭」