第16章 最後の悪あがき
夕闇の中でボールが跳ねる。花織と風丸はいつものように練習後、河川敷で練習をしていた。陸上も何も関係なくボールを蹴れることが嬉しい、風丸はそんなふうに感じていた。だが、花織とのこうやっての練習も、あと多くて3日……きっと来週にはこの光景は無くなる。花織がこうやってフィールドを駆ける姿を風丸が見ることも、もうなくなる。
「……はっ!!」
風丸を避けて花織がシュートを放つ。ゴールキーパーのいないゴールには花織のシュートが易々と決まった。さらりと花織の髪が揺れる。その表情には笑顔があった。
「凄いじゃないか、花織!」
「うん……!ありがとう、一郎太くん」
風丸が純粋に花織をほめれば花織は心底嬉しそうに頷いた。花織は実力差が開きつつあった風丸に対して攻撃を決められたことが嬉しかった。こうやって1対1でシュートを決められることはこの頃なくなってきていたのだ。花織はふうと息をついて額の汗を手の甲で拭った。
「少し、休憩しよっか」
「そうだな」
ベンチへと向かいながら、どちらともなく寄り添う。風丸がさらりと花織の髪に触れて彼女の髪をなびかせた。
「花織、髪伸びたな」
「そう……?そろそろ結ばなきゃ」
「伸ばすのか?」
いつの日か、花織が自分と御揃いの髪が嬉しいと言ってくれたことを思いだす。もうすぐ恋人同士でなくなることを考えると言い出しにくいことだが、風丸は花織に髪を伸ばしてほしいと思っていた。
「うーん、どうしようかなあ……、一郎太くんはどっちがいいと思う?」
「……俺は」
花織が首を傾げる。風丸は思わず自分の希望を口にしようとしたが口を噤む。俺の好みは、花織には必要ない……、自分にそう言い聞かせて風丸は微笑んだ。
「俺はどんな花織でも好きだよ」
「えっ……」
花織は虚を突かれて目を大きく見開く。まさか風丸が、恋愛小説にでも出てきそうなそんな言葉を口にするとは思わなかったのだ。花織は呆気にとられた後、くすっと笑みをこぼす。そして肩をすくめるとベンチに腰かけた。もちろん風丸も隣に腰かける。