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恋風

第2章 不思議な気持ち




風丸は缶の縁に口を付けジュースを飲む。そして缶を口から離すと艶っぽく指先で口元を拭った。その仕草に思わず花織は真っ赤になり、視線のやり場に困ってしまった。一瞬風丸に見惚れてしまった自分が無性に恥ずかしくなってしまう。

「ん?……俺の顔に何かついてるか?」
「っ……ううん、なんでもないの」

慌てて顔の前で手を振る花織に風丸は不思議そうな表情で首を傾げるが、すぐに前を向いて話の続きを始める。彼の長い前髪が横顔を隠してしまっている。

「話は戻るが、月島はかなりフォームが綺麗だと俺は思うんだ。スピードもあるし。……誰かに指導を受けたこととかは無いのか?」
「全部自己流だよ。私ね、かなりの負けず嫌いでスピードだけは誰にも負けたくなかったんだ。だからその気持ちで今までやってこれた」

どこか遠くを見つめながら寂しげに花織が語る。風丸は黙って花織の横顔を見つめながら真摯に話を聞いていた。スピードだけは誰にも負けたくない、その彼女の気持ちは風丸に通じるものがある。

「正直、全然楽しくなかった。一人で、ただ闇雲に走ってるのは」

たった一人で、成長できているのかも分からない練習。いや練習するだけで周りから良い目で見られることのない日々。すべては彼の目に留まりたいという淡い願いの為だった。しかし今は違う。

「でも、今は違うよ。一緒に走ってくれる人がいて、こんな風に話も聞いてくれて」
「月島」

花織は微笑んで風丸の顔を見る。風丸と出会って花織にとって走るという行為の意味は変わった。楽しいという感情が芽生え、単純に走るという行為が楽しみになった。誰かが隣を走ってくれる、そしてこんな風に練習について話ができる。こんな他愛もないことが新鮮で心地よい。

「私、今凄く楽しい。ありがとう、風丸くん」

途端に風丸の鼓動が高鳴る。初めて見た花織の屈託ない微笑み、ここまで嬉しげで楽しげな彼女は初めてだった。何だろう、この気持ちは……風丸じっと花織の顔を見つめる。

「風丸くん?……迷惑、だったかな?」

無言で黙り込み、反応のない風丸に花織がが目を伏せる。それを見た風丸は慌てて花織の言葉を否定した。

「い、いや、そんなことはない!!……ありがとう。俺に話してくれて」
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