第2章 不思議な気持ち
夕暮れ時、今日は珍しく男子陸上部も練習が早く終わるようで花織は片づけを手伝っていた。花織はいつの間にか女子陸上部より男子陸上部の方に馴染んでしまっていた。女子陸上には先輩たちに嫌われているのか全く居場所がないのだ。それに比べて男子陸上部は風丸を初めて宮坂や他の部員たちも花織を歓迎してくれていた。
帝国に居たときはこんな風に部活の仲間と話したりすることなどなかったのに、皮肉めいた考えを持ちながらふぅっとため息をつくと、いきなり頬に冷たい感覚が走った。
「…………!!」
驚いて飛び退くと、背後には両手に缶ジュースを持っている風丸がいた。風丸も花織が飛びのいたことに驚いたようだが、すぐにははっと笑って缶ジュースを差し出す。
「驚いたか?差し入れだぞ」
頷いて風丸から冷えたその缶を受け取る。ラベルを見てみると中身はスポーツ飲料のようだった。
「ありがとう。……でも、悪いよ」
「気にするな。なぁそれより、少し話さないか?」
花織はきょとんとして風丸を見る。急に改まってどうしたのだろうか。だが断る様な理由もなく花織は風丸の提案に頷く。
「いいけど……」
「すまないな」
2人はグラウンド脇のベンチに腰掛ける。2人の間には少しだけ距離があって、傍から見れば初々しいカップルの様だった。2人の間に流れる沈黙は相変わらず長い。
「で、何話すの?私、面白い話はできないよ?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあってな」
ぷしゅっと音を立てて、風丸が缶ジュースのプルトップを開ける。花織はそれを見ながら肩にかかる髪を後ろに払った。長い髪というのは自分にとって宝物ではあるが、時折邪魔になることもある代物だ。
「聞きたいこと?」
「ああ。帝国に居たときの練習内容が知りたい。参考にしたいんだ。」
風丸の言葉に花織が俯く。掌の汗をかいた缶のプルトップに爪を引っ掻けながら目を伏せた。やはりこの人は真面目だ。真剣な風丸の為にも答えたいと思う花織だが、自分の記憶の中には教えられるような事は無かった。
「ごめんね。前にも言ったと思うけどサッカー部の事ばっかりで、あんまり練習できなくて……」