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恋風

第15章 歪みきった関係




「……私は、女子陸上部だけど……もう戻れないと思う。やっぱり男子陸上部に女子が一人混じるって言うのもあまり長い期間は問題だし。…………それにね、私。もう前みたいに速さに固執する必要がなくなったの」

花織はふっと口元にほほえみを浮かべる。もちろん今だって彼女の中に速くありたいという向上心がなくなったわけではない。帝国時代、花織が速さを求めたのは鬼道のためだ。鬼道の目に止まるため……。

だが鬼道を忘れ風丸の傍にありたいと思う今、誰より速く有る必要はない。むしろ風丸の速さを見ていられればそれでいい。それで鬼道を忘れられたら、彼の申し出を断れるくらいの決心が付けば。

しかし、風丸は花織の考えを正確に把握することはできなかった。

彼はずっと花織の気持ちは鬼道に向けられる物の方が大きいものだと思いこんでいた。隣の芝は青く見える、その原理と同じで。だからこそ、花織の言葉を聞いて彼の気持ちは陸上への悩みと共に深く沈んでいった。

"――――やっぱり、花織は"

彼にとって花織の速さとは、彼自身が花織という存在に惹かれた、彼女に惚れたもっとも大きな要因なのだ。それを意味が違うとはいえ、必要のなくなったのだと言われると、自分の好意が否定されたような気がした。

それは、双方が互いを思い合う故の傷つけ合いだった。

「…………必要、ない……か」
「うん。それに……これ以上のタイム更新は、もうできそうにもないから」

そっと花織が押さえるように胸に手を当てる。花織が陸上に戻らないと決意したもう一つの理由は今まで見ないようにしてきた事実をとううとう認めざるをえなくなったからだった。もう誤魔化しきれなくなってしまった。……自分の体がだんだんとスポーツには不向きな身体になりつつあることに。
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