第14章 真実と疑惑
「……他に、何か言われなかったのか?」
風丸は、花織がすべてを話してくれると思っていた。それほど彼女が自分に誠実であろうという思いが伝わってくるからだ。……話してほしい。試合前に彼らが話していたことを。きっと自分の推測通りの話を。
花織は少しだけ俯くときゅっと彼の手を握りなおす。
「好きだって、言われた……。鬼道さんに」
「……っ」
やはり、と風丸は思う。想像していても実際に目の当たりにすると胸が苦しい。自分の意思とはかかわらずにぐっと自分の表情が険しくなるのを彼は感じていた。
「一郎太くん……」
花織は風丸の手を引いて歩みを止めた。――――また、言われるだろうか。風丸は息をのむ。
「一郎太くんは……。あの、私のこと、好き?」
少し照れたように、またそれを問うのも恥ずかしいと感じながら花織が頬を染めた。風丸はきょとんとしてしまう。てっきり別れ話を告げられるかと思っていた風丸は拍子抜けしてしまったのだ。そして戸惑いながらも風丸は素直な気持ちを口にする。
「あ、ああ……、好きだよ。好きじゃなきゃ、付き合ってないだろ。俺たち」
「……うん、ありがとう。あのね、一郎太くん。……私、断るよ。まだ答えはいらない、考えてくれって鬼道さんには言われたけど……。やっぱり私は一郎太くんが好き。だからちゃんと断る、鬼道さんがどれだけ過去の私に大切な人だとしても」
花織の告白を嬉しく思いながらも風丸は嘘だ、と思っていた。花織の言葉には一つだけ偽りがあった。風丸は確信する。
鬼道が過去の人なわけがない、花織の目を見ればすぐにわかる。今だって鬼道に焦がれている。
――俺が花織を縛り付けている。音無に言った通りに。
本当は鬼道への想いを声を大にして叫びたいはずなのに、花織は俺を気遣ってアイツへの想いを押し殺している。風丸は花織に偽りを返しながらも胸の中で決意を新たにした。
――――――いつか、なんて。悠長なことを言っている時間はない、早急に想いを断たなければ。