第14章 真実と疑惑
「音無で……ううん、音無春奈が良いの」
久しぶりに鬼道の見る春奈の笑顔はあの頃のままだった。春奈の笑顔に触れて今、初めて鬼道は自分の誤りに気が付いた。自分と別離したから春奈は幸せではないと……兄として自分が春奈を引き取らなければならないと。しかしそうではなかったのだ、名前は違ってもただ傍にいればよかっただけだった。
「そうか、いい父さんと母さんなんだな」
「うん」
春奈は鬼道の柔らかい表情に涙を浮かべる。今まで憎もうとしていた兄が、嫌悪の対象になりかけていた兄が急に愛おしく思えた。何も、何も変わっていなかった。兄は今までと同じように自分を大切にしてくれていた。きっと、自分の想いまでも押し殺そうとして……。そう思うと春奈は堪らない気持ちになった。
「ありがとうお兄ちゃん……っ!」
春奈は兄の身体に飛び込む。彼女の兄は優しくそれを抱きとめてくれた。久しぶりに兄を兄と実感できた瞬間だった。春奈は兄の肩に顔を埋めたまま、小さくつぶやく。
「ごめんね……、お兄ちゃん」
「何がだ?」
「花織先輩のこと……。好きなんでしょ、お兄ちゃん」
感動もつかの間、春奈に告げられた衝撃の言葉に鬼道はぎょっとする。鬼道が動揺したのがわかって春奈はくすくすっと笑うと鬼道から離れた。先ほどのしおらしい表情とは違って今の春奈の表情は、兄の恋のからかいに緩んでいた。
「どうしてそれを知っている……、春奈」
「うふふ、わかるよ。だってお兄ちゃん、花織先輩を見る時の目すっごく優しいんだよ」
「そ、そうか……」
実の妹に自分の恋愛事情を突っ込まれてしまうというのはどうにも照れくさい。鬼道が困ったふうに頬を掻くと春奈はニコニコと笑い楽しげに言葉を口にした。
「私、お兄ちゃんのこと応援するね?今まで迷惑かけちゃった分、いっぱいに」
「余計なことはしなくていいぞ……」
春奈にとってみれば自分の意思であり、風丸からの頼みである言葉に鬼道は苦々しく笑う。余計なことはしなくていい……そういっても今の状況から春奈が全力で協力するということははっきりと分かった。何故なら、こういう時の彼女は絶対に意見を曲げないからだ。案の定、春奈は否定の言葉を喜びいっぱいに口にする。
「ううん。協力させて!だって私、お姉ちゃんが欲しいもん」