第14章 真実と疑惑
「花織は別に二股を掛けてるわけじゃない。……俺に黙って変なことをしてるわけでもない」
「花織先輩がちゃんと風丸先輩にお兄ちゃんのことが好きだったって、言ってるってことは知ってます!でも、風丸先輩と付き合ってるならもっと……!!」
春奈が風丸の言葉にムキになって言い返す。春奈は花織が許せなかったのだ。普段あれだけ風丸のためにと……。秋葉名戸戦のときだって風丸にどう思われるかだけを気にしていたような花織が、風丸の想いに答えたいからと淋しげに笑っていた花織が自分の兄とまるで浮気のようなことをしていたという事実が。しかし、春奈の言葉に風丸は首を振る。
「音無、花織が本当に好きなのは鬼道なんだ」
はっきりと自分に言い聞かせるように風丸が言う。春奈はそんな風丸の表情に口を噤んでしまった。彼は寂しさのような、やるせなさのような……。何とも言い表せない表情をしていた。唯わかるのは、今まで春奈が見たことのない風丸の表情だということだけだ。
「花織はただ優しいだけだから」
優しい、その言葉に不思議なほどの響きがある。
「優しいだけで風丸先輩と付き合ってるなら、それはただの同情ですよ」
春奈が口を挟むが風丸はただ首を振った。
「音無、花織からどこまで話を聞いてる?」
「どこって……。花織先輩が転校してきて、風丸先輩の告白をお兄ちゃんを好きだと断ろうとしたけど、風丸先輩がそれでもいいっていったんでしょう?」
花織は、事のあらましを春奈に話しはしたがすべて真実を話したわけではなかった。いくつかを省略して、簡単に彼女に今までの恋路を語っていた。
「花織はさ、一回俺のことを振ったんだ。好きな人がいるから、俺とは付き合えないって」
「え……?」
春奈はぽかんと口をあける。知らないことだった。唯、"私が好きな人へとの感情と一郎太くんへの感情をどう処理していいかわからないときに、彼は自分を代わりにしてもいい。今は変わりだと思っていいから、いつか俺を見てくれないかって言ってくれたの"と花織はそう言っていた。振ったなんて言葉は一度も使わなかった。