第13章 鬼の道に有る人
一方そのころ風丸は、いつものようにアップをこなしていきながらも胸の中にモヤモヤとしたものを感じていた。ずっと、あの時から気にかかって仕方がない。花織を鬼道に引き渡したあの時から、風丸の心は平静を装っているかのように思えるが全く穏やかではなかった。
今2人の姿が全く見えないこともその思いを増長させる一因で、それを堪えてボールを蹴ることに風丸は必死だった。
――――俺は花織を好いている。
昨晩、至極当たり前のように告げられた鬼道の言葉だ。鬼道は花織についての好意を隠す気など微塵もないかのような口調でそう言い放った。きっと彼女に対する態度もそのようなものなのであろう。だからこそ、花織と鬼道が2人きりでいるこの状況で、2人が何をしているのかが気にかかって仕方がないのだ。……何が起こったっておかしくない、花織だって鬼道のことが好きなのだから。
…………決して俺が口をはさめることじゃない。
たとえ自分が花織にとって恋人という特別な地位を獲得していたとしても、俺はそれを鬼道の代わりという約束で自分のものにした。それだけじゃない、その偽りの恋人という地位に立つ俺の為に鬼道と会わないという約束まで提案してくれた花織を、自らの手でその鬼道に引き渡したのだから。
だから、もうきっとこれでよかったのだ。御影戦のときから決めていた。いつか花織を手放すことを。本当はまだ決心などつかなかった、でもこうすればきっと花織は俺から離れて鬼道の元へ行く。花織も本当に好きな男といられて幸せだろう。風丸はそんな思いで今の状況に立っていた。
俺にできることはチームにとっての最善を、花織の為に何が正解かを選ぶことだ。
ちらりとベンチの方へと視線を向ける。いつもそこからアップの時ですら自分を見てくれている彼女の姿はそこにはない。しかし、いつもそこにたって自分を応援し、プレーを一心に見つめてくれる彼女の姿がありありと思いだされた。
本当は手放したくなんてない、だれにも渡したくない。俺の傍にいて、俺だけを応援してほしい。そんな気持ちを押し殺して風丸は何も言うことができないでいた。