第13章 鬼の道に有る人
花織は大きく目を見開く。花織が鬼道を想うということ自体を切なく感じている風丸が、花織をその恋敵に引き渡したのはそういうわけだったのだ。花織はぐっと胸が締め付けられるような苦しさを感じる。
――――一郎太くんはどんな想いで……。
自惚れなどではなく、心からいつも彼が自分自身を恋人として大切にしてくれているということを花織は感じていた。だからこそ胸が苦しい、風丸の花織を見送るあの表情を思い出せば。しかし、花織の心はこれほどまで自分を想ってくれる人がいるというのにその彼の気持ちに対しては誠実であれなかった。
「ああ。……しかしそんな約束があったにしろ無かったにしろ、お前だけは必ず俺が守って見せる。何に変えてもな」
どきりと胸の鼓動が大きくなる。自分を大切にしてくれる風丸を想いながらもやはり花織の心は鬼道にもあった。
でも……どうして鬼道はそこまで宣言するのだろう。わからない、その理由が。しかし、花織を守ろうとしている、その事実だけは何よりも確かなものだった。
やめてほしい、花織は唇を噛む。もうこれ以上、この人のことを好きになりたくない。
しばらく花織は何も言えなかった。ただただ会場を調べて回る鬼道の後をついて、何か不自然なものがないかを見て回るだけだった。しかし何も見つからない。沈黙に耐えかねて、花織が何か鬼道に言葉を掛けようとした時だった。
「何を企んでいるの!!」
鋭い声がこちらめがけて飛んできた。その大声の主に視線を向ける。すると今2人のいるベンチ周辺のちょうど対面に険しい顔をした春奈がこちらを見ていた。
「信じないから!!キャプテンや花織先輩は騙せても、私は信じないから!!貴方は変わってしまった!!」
春奈の怒号が会場に響く。その言葉に悲しげに鬼道の眉が下げられたのを花織は見逃さなかった。
「変わった、か……」
ぽつりとつぶやいて鬼道が花織の手を握る。そして花織の手を引いた鬼道は春奈に背を向けてすぐ傍に在った通路へと降りて行った。