第13章 鬼の道に有る人
「鬼道さん……!」
いろいろなところへ視線を向けながら歩く鬼道に握られたままの手を、腕の力で引いて花織が俯く。今は長い長い廊下を2人だけで歩いていた。暗く重々しい雰囲気のこの学園は、ただでさえ息がつまりそうで仕方ない。それなのに、今この不可解な状況はさらに花織の呼吸を妨げた。
恋人と、風丸と約束したのに。もう鬼道とは会わないようにすると。そしてそれを鬼道自身も承諾したはずなのに。2人の行動は花織の約束に反するものだった。よくわからない、風丸の行動も鬼道の意図も。
「花織」
「……!」
その場に立ち止まって歩き出そうとしない花織を見て鬼道も足をとめた。それと同時にするりと鬼道の腕が花織の身体を抱き寄せる。花織はびく、と身体を震わせてそれから逃れようとしたが、思うよりも鬼道の腕の力は強かった。
「お前が無事で……、本当によかった」
どくん、と花織の心が熱くなる。彼の声は心の底から安堵したのだとわかる、それに満ち溢れた声色をしていた。いつもの冷静な彼ではなく、本当に感情に任せて自分の事を抱き寄せている鬼道に、花織は少なからず動揺していた。
「きどう、さん?」
疑問符を浮かべたような声で花織が恐る恐る尋ねる。鬼道は掠れた声で花織の身体を抱きしめたまま話し始めた。
「お前が……、お前が攫われかけたという話を風丸から聞いて、ずっと心配していた。俺自身が制御できないくらいに。……それも、俺のせいだというのだから尚更だ」
「どういう……、意味ですか?」
鬼道のせい、とはどういうことなのだろうか。花織には昨日の記憶があまりなかった。あの時、襲われたときのことは鮮明に思い出せるがその風丸に助けて貰うまで……、その前後どうしていたのかはよくわからない。花織は昨日の出来事を思い出す。後をつけられ、背後から拘束される……。本当に殺されるのではないかと思った。
あの恐怖を思い出せば自然と体が強張った。それを察したのか鬼道が花織の背を撫でる。2,3度彼女の背を撫でた鬼道は花織を自分の腕から解放し、再び花織の左手を握った。