第12章 瞳に映るのは
「月島、花織だな」
壁に身体を押し付けられたまま、そのまま後ろ手に縛られる。何故名前を――?そこまで花織の思考は回らなかった。しかし男は背後で何かを確認しているようだ。ごそごそと何かを探しているのが分かる。花織の心は恐怖で凍りつきかけたが、震える足に力を籠め何とかふみ留める。
相手は今油断している。商店街……、雷々軒まではあと少し。相手が1人ならば自分の足なら充分撒けるはずだ。花織は決意を固めると服が破れ、肌が擦れるのも構わずに勢いよく身体を反転させる。そして唐突な花織の抵抗に驚いた男の急所めがけて、持ち前の脚力で足を振り上げた。
「うぐ……っ!」
男は悶絶し、股間を押さえて蹲る。花織はそれと同時に商店街へ向かって走り出した。後ろ手に縛られているせいで上手くバランスがとれない。足がもつれて今にも転びそうだ。それでも何とか足に鞭打って走る。大丈夫、これなら何とか雷々軒までたどり着ける―――!
「逃げたぞ!」
花織に攻撃された男が大声を上げる。花織は刹那何とも嫌な予感を感じた。
――――まさか。
しかし止まるわけにもいかず、花織が最後の曲り角を曲がる。瞬間、黒服の2人の男が角から現れ花織を取り押さえた。
「放して!!」
花織は身を捩った。しかしそれでも男の拘束は緩むことなく、それどころか大声を上げても男たちのほかには人っ子一人いない。冷たい恐怖が花織の身体を駆けぬける。先ほどは感じなかった絶望感が花織の動きを竦ませた。
「おとなしくしてろっ!」
「いやっ!!助けてっ……、いち!!……んんっ」
大声を上げて助けを乞うたがやはり人影はない。その上猿轡を噛まされ、耳も目も塞がれてしまった。体の自由を奪われ五感も奪われてしまえばもう助けの求めようがない。
「んん……、ん」
くぐもった声が漏れるが意味のある言葉にはならなかった。突き落とされたような恐怖感が花織の心をすでに支配していた。……殺されてしまうかもしれない、もう2度と彼には合えないかも。
助けてお父さんお母さん―――!!助けて『』――!!
無理やり身体を引きずられる様な感覚を覚えながら、花織はひたすら彼に助けを求めた。