第12章 瞳に映るのは
「え、円堂く」
「風丸も一緒にってさー!!」
円堂に返事をしようとすれば花織の声に円堂の声が重なり、かき消された。花織が風丸の方に視線を向ければ、風丸は複雑そうな表情を浮かべ鬼道を見つめていた。
「あの……、一郎太くん」
「……行くぞ、花織」
花織がそっと風丸の元へ歩み寄ると、風丸は花織の手を取って鬼道の元へと歩き始めた。周囲の視線が痛い。階段を上り円堂の隣、鬼道の正面へと2人は立った。しかし誰も、円堂さえも何も話さない。沈黙がただただ痛かった。
花織はちらりと風丸の表情を伺う。彼はとても険しい顔をしていた。そんな中、口を開いたのは鬼道だ。
「花織」
呼ばれた名に眉を顰めたのは風丸だった。何故コイツは花織の名を呼んでいる?以前は月島、と名字で呼んでいたはずだが。
「なんでしょうか……、鬼道さん」
「すまなかった。お前にスパイの黙認を強要させるようなことをしてしまって。……風丸もお前の恋人を利用して悪かった」
丁寧で静かな謝罪だった。しかし、風丸は"お前の恋人"というフレーズにどこか棘を感じた。花織を握る手に力を込めれば花織は風丸の方へ視線を向ける。そう、まだ花織は俺の傍にいる……。ほんの少し、鬼道に対して優越感を覚えた。
「ああ」
「決勝戦、いい試合にしよう。……俺は負ける気はない。何に置いてもな」
そういって鬼道はちらりと花織へと視線を送る。その眼差しはゴーグル越しでありながらもどこか愛おしげで柔らかさを感じた。宣戦布告か――、風丸は唇を噛む。こんな負け戦、受けることさえ馬鹿らしい。
――――ずっと前から花織の心はお前のものじゃないか。
「それだけだ、ではな」
そう言って鬼道は踵を返す。その背中に円堂が今度は一緒に練習しようぜー!!と声を掛けている。
「鬼道も気合入ってるなあ!俺たちも頑張らないと、な風丸!!」
「ああ……」
風丸は今も鬼道の背中を見つめ、次に花織に視線を寄せた。
「そうだな」
いつまで彼女にとって特別な存在として応援されるのかはわからないのだから。