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恋風

第11章 ただひとつだけ



「私が、今も……。鬼道さんが好きだからです。これは鬼道さんにとっても一郎太くんにとっても邪魔な気持ちだから。鬼道さんに会ってしまったら、きっとその気持ちは大きくなってしまいます」
「……」
「だから私は鬼道さんには会えません」

片思いのヒロイン。――独りよがりな感情、そして風丸に対する不誠実な想い。消えてしまうべき感情が花織の行動の理由だった。

「花織、俺は……。いや、今はやめておこう。……今日はもう遅い、早く身体を休めろ」
「鬼道さん……」

気を悪くしてしまったのだろうか。花織は不安になったが何もいう事ができなかった。

「すべては帝国が全国制覇を果たしてからにしよう。ことにお前の恋人をサッカーで下してからにな」
「ラフ、プレイは……」

花織が思わず呟く。以前の試合を思い出した。あんなことになるのは2度とごめんだ。

「安心しろ、この前のようにはならない。お前たちはそのために特訓するんだろう」
「はい……」
「それと、お前が俺に会いたくないのはわかった。だがせめて、また電話をかけてもいいだろうか。お前とまた話がしたい」

本当に風丸を想うのなら、きっとここで鬼道の頼みを断るべきなのだろう。しかし、どう足掻いても花織は彼を好いていた。しかも久しぶりに打ち解けた時間を過ごした後なのだから。

「電話くらいなら……」

***

花織との電話を終えた鬼道は仄暗い部屋でふっとため息をついた。また彼女に干渉してしまった。しかし決意を揺らがせてしまった自分への嫌悪感はあったが、後悔はしていなかった。

花織と会うこと、いや接触することは鬼道にとっては禁忌とも呼べる事項なのだ。でなければあの日、花織を傷つけるような言葉を吐くことなど一生なかったはずだ。しかし……。

鬼道には何を置いても達成せねばならない悲願があった。それを遂げるため、花織をどうしても遠ざける必要があったのだ。だから今彼の行った電話を掛ける、という行為はそれに背くものであった。

しかし、以前まで彼が制しきれていたその行為は抑えきれない衝動へと転じていた。花織と会いたい、花織の声が聴きたい。……それだけがすべてになってゆく。

その感情に名をつけるのなら、まさにそれは恋と呼ぶべき代物だった。
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