第11章 ただひとつだけ
「そうか。……まずお前に聞きたいことがあるんだが」
花織は警戒しながら鬼道の言葉を待つ。こちらが不利になること……、彼にとって不利益を齎すことだけは答えてはいけないと肝に銘じる。しかし、鬼道の言葉は思いにもよらないものだった。
「お前がメイド服を身に着けて、風丸に奉仕をしたという情報を得たのだが。……本当か?」
花織は言葉を失う。えらく真面目な調子で放たれた鬼道の言葉は帝国の利益とは全く関係のないものだった。
「は、あ……?」
「写真も送られてきているが……。お前にはそういう趣味があったのか?」
電話越しの鬼道は酷く深刻そうな声色をしていた。花織はぽかんとしたのちに思わず吹き出した。あの鬼道が、そんなどうでもよいことを真剣に尋ねていることが可笑しかった。
「ふふっ……。そんなことが気になるんですか?」
堪えられなくなって花織が笑う。張りつめられていた2人の間の空気が確かに緩んだ瞬間だった。花織のこらえきれなかった笑い声に鬼道は優しい口調でつぶやく。
「久しぶりに聞いたな、お前の楽しそうな声は」
花織の胸はきゅんと切なくなった。あの頃の鬼道だ、帝国にいたころ花織に声を掛けてくれていた。
「きどう、さん……」
「花織、雷門での生活は楽しいか?」
まるで父親のような言葉だった。花織を気に掛ける言葉だ。
「はい……。とっても」