第11章 ただひとつだけ
その日の夜、風呂上がりの花織はベッドに腰掛け、今日土産にと貰ったメイド服へと目を向けた。それを見るだけで未だにドライヤーの熱を持つ髪と同じくらい顔が熱くなる。
あの後試合は多少苦戦こそしたものの、怪我をした豪炎寺の代わりに出場した目金の捨て身のプレイにより、秋葉名戸に勝利を収めた。これで決勝進出、次の相手は帝国学園――、鬼道のいる帝国。そう思うと少し花織の表情が陰った。風丸の方へ気持ちの傾いている今、鬼道に会いたくなかった。ただでさえ、この頃の鬼道の行動は読めないのだから。
"本当にどうでもいい奴には心配などしない"そう、鬼道は言っていた。とすると花織は彼にとってどうでもいい人間ではないのだろうか。花織はベッドに寝転がると、切なくなる気持ちを抑えるように傍にあった枕をぎゅうと抱きしめる。
――そんなことを言われると期待してしまう。でも、私には……
重い息を吐いた花織は携帯を手に取る。無性に風丸の声が聴きたくなった。確かに鬼道を想う気持ちはずっと変わりないのだが、花織の気が付かないうちに段々と風丸へ対する気持ちが大きくなってきているのだ。こんな時は彼の声を聞きたい……聞いて自分には彼がいるのだと理解しなければ。
そっと携帯を握る。彼に電話を掛けようかと迷ったその時、聞きなれたメロディーが手の中のそれから奏でられた。びっくりした花織は慌てて通話ボタンを押し、携帯を耳に当てる。
「もしもし……っ」
「……いやに慌てているな、花織」
その低い声に花織は息を呑んだ。この声は――。
「っ……鬼道、さん……?」
電話の声の主は今、花織の一番話をしたくない人だった。驚いて花織はベッドから飛び起きる。突然のことに心臓が口から飛び出そうなほど脈打っていた。
「何の、ごようですか?」
「フッ……、随分な挨拶だな。……お前と話がしたかったんだ」
花織は口元を押さえる。
「……そんな、うそ」
「嘘だと思うか?まあいい、それより時間は大丈夫か?」
特に用もない、時間は大丈夫だが。本当に何の用だろうか。花織がか細い声ではい、と返答を返せば鬼道はどこか満足げだった。