第11章 ただひとつだけ
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「花織……あのさ」
人目のつかない秋葉の校舎内で風丸は立ち止まった。花織の正面に立ってはいるが彼は花織の顔を見ようとはせず、俯いている。
「その格好は……」
「マネージャーは、メイド服着るんだって……」
「そ、そうか……」
しどろもどろになりつつ風丸が返事をする。
「じゃ、なんで、あんな」
「……いや、だった?」
申し訳な下げに花織が風丸を見つめる。嫌じゃないが……と風丸が言葉を詰まらせると今度は花織が俯いて静かに話しだした。
「この間、一郎太くんがメイド喫茶に行ったから……そのときに春奈ちゃんに言われた冗談がどうしても気にかかって、不安で堪らなくなって……。だからメイド服を渡されたときに、その、メイドさんに対して変な対抗意識を感じちゃって」
言葉を詰まらせながら紡ぐ花織の言葉に風丸も彼女が何を言いたいのかを悟った。つまるところ、彼女はメイドに嫉妬していたのだ。
「あの……ごめんね、変なことして。こんなバカみたいな嫉妬……」
「花織……」
自分のしでかしたことへの恥ずかしさ、嫉妬という子供じみた対抗意識への情けなさ、風丸を不快に気持ちにしてしまったのではないかという自分に対する嫌悪感が混ざり合って花織の目には涙が浮かぶ。しかし、名前を呼ばれて顔をあげてみれば優しく、だが力強く花織の身体は抱き寄せられた。
風丸はただ単純に嬉しかった。いや、嬉しくないわけがない。ずっと今も好きな女に自分がいつも抱いている感情を感じてくれているのだ。花織の愛が確実に自分に対して向けられている。今この瞳に映っているのは鬼道ではなく風丸なのだ。その事実がこの上なく幸せだと感じずにはいられない。