第11章 ただひとつだけ
風丸が件の場所に言ってから花織はどうにも風丸に対してよそよそしい態度をとるようになった。春奈の言葉がどうしても気にかかるのだ。たとえ冗談だとは分かっていても、もしも本当にそんなことがあったらと思うと憂鬱な気分になってしまう。河川敷でランニングをしている彼をぼんやりと見つめて花織はため息をついた。
自分は彼に対してもっと酷い行為をしているというのに。それを自覚していながらこの嫉妬という感情を抑えることができなかった。
「どうかしたのか?」
浮かない顔をしてベンチに掛けていた花織にランニングを終えた風丸が声を掛けた。普段なら絶対に彼と一緒に走るはずの花織が今日は一緒に練習しないといったのだ。心配にならないわけがない。
「ううん、なんでもない」
「悩みでもあるんじゃないか?」
風丸が背をかがめ、ベンチに掛ける花織へと視線を合わせると優しい声で問う。花織は俯いた。彼に心配をかける自分がどうにも情けなくなる。
「大丈夫だよ。……こんなんじゃダメだよね。準決勝の相手を聞いて気が抜けてるのかな。慢心はいけないってわかってるのに。……やっぱり、私も一緒に練習するよ」
話を切り替えて花織が立ち上がる。どうしようもないのだし、こういうときは走って気を紛らわせるのがいいだろう。やはりどこか思いつめるような表情をしている花織に風丸は困ったような笑みを浮かべた。
「最近、嫌な事でもあったのか?ずっと機嫌が悪いみたいだな」
見透かすような風丸の言葉に花織の胸がどくんと大きく跳ねる。事実だからこそ何も言えない。
「そうかな?」
「ああ。……花織、俺にできることなら何でも言ってくれ。お前がそんな顔してたんじゃ俺、心配だよ」
「一郎太くん……」
微笑んだ風丸の瞳が、言葉が何よりも優しい。
「ごめんね、一郎太くん。……ありがとう」
酷く胸が切なくなった。