第10章 悲壮の決意
「私、もう鬼道さんと会わないことにする」
「え……?」
花織が少し微笑んでそう呟けば風丸は酷く驚いたようだった。
「このまま一郎太くんに不誠実なのは嫌だから。……だからもう会わない、電話が掛かってきたとしてもちゃんと断るようにする」
「俺の事は気にしなくても」
「私、一郎太くんのそんな顔見たくない。一郎太くんが大好きだから傍に置いてほしいの」
そう、たとえ今はどんなに歪でもどうにか彼の想いに答えたいから。
花織が目を閉じて風丸に顔を近づける。キスと呼べるのか分からないほど微かに触れた唇が震えた。自分から誰かに対して口付けるのは初めてだったのだ。拙いキスを終えると風丸は花織の身体を再び掻き抱く。
彼女を縛りたくないと言いつつも、結局、現実は自分が花織を縛り付けているという事実が辛い。本当に彼女を想うのならば、今すぐにでも関係を解消し彼女を自由にすべきなのだ。風丸の行動は鬼道の代わりといいつつ、自分を慰め、また惨めなものにしているだけに過ぎない。だがそれでも花織が好きなのだ。どれだけ独りよがりな感情だとしても。
でもいつか――。その時がきたのなら。
風丸は目を伏せ、ゆっくりと手の力を緩めた。いつか、その時が来たら俺は花織の幸せのために身を引こう。それが何よりも最善の選択だから。このままでは花織はこれからも俺と鬼道の間で苦しみ続ける。鬼道のことを忘れさせるために関係を結んだが、きっと花織は一途だから。そして鬼道も花織を……。
とにかくこのまま関係を続けていると、自分の愛情表現に常に罪悪感を伴わせてしまうことになる。そんな思いだけは、させたくないんだ。
「花織…………」
愛しい少女の名を呼び、風丸は花織の頬を撫ぜる。ゆらりと美しい黒の瞳が揺れた。
でも今は、花織の傍にいることを許してほしい。仮にも花織を傷つけ、仲間を傷つけた……疑心に塗れたあの男に大切な彼女を渡すことなどできないから。だから、それまでは。
「……俺の傍にいてくれ」
頷かれたその約束はきっと守られることは無いけれど。