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恋風

第10章 悲壮の決意




「いちろ……っ」

わけのわからないままに彼の名を呼ぼうとすれば、いつにもなく荒々しく唇を奪われた。花織は風丸のジャージの胸元を握りしめる。風丸らしくない行動だった。しかし彼にこんなことをさせたのは自分のしたことが原因だと、花織は酸欠のせいでぼんやりと靄の掛かった視界の中で思う。そして優しく唇が離されたかと思えば、今度は強く彼の腕の中に抱き寄せられた。

「……すまない」

風丸が花織を抱きしめて呟く。風丸の身体は微かに震えていた。

鬼道と花織が話しているのを見たとき、彼の心は燃え上がるような嫉妬で埋め尽くされた。本当なら、すぐさまその場で花織を抱き寄せ、花織に触るなと怒鳴りつけたかった。花織の恋人は俺だとはっきりと見せつけてやりたかった。しかし、僅かに残った彼の理性がそれを制した。

そんなことをして花織に嫌われたくなかったのだ。未だ鬼道を好いている花織にとってみれば、風丸の想いに任せた行動はただただ迷惑になるだろうとそう彼は考えた。風丸は花織を抱く手に力を込める。

花織にとって俺は鬼道の代わりだ。そういう約束で関係を結んだのだから。

「一郎太くん……。ごめんなさい、私」
「いいんだ。……好きなやつに会いたいと思うのは当たり前の事だからな」

本当は自分は彼女の傍にいる資格がないのだと風丸は思う。しかし、同じよう花織も風丸の傍にいる資格がないと感じていた。風丸の事が好きだ、しかしそれでも鬼道に惹かれる自分がいる。未だに鬼道を心の中で思い続けていた。だからこそ、早く風丸とは別れるべきだと何度思ったことか。花織は目を伏せる。

それでも風丸は自分を鬼道の代わりにしろというのだ。そんなことをしても報われることなどない筈なのに。

「一郎太くん……」

花織は彼の名を呼び、腕の拘束を緩めさせるとそっと、彼の首筋に両手を当てた。びくりと風丸の身体が揺れる。花織が風丸の前髪を払うと悲しげな茶色い瞳と目があった。自分が彼にそんな顔をさせているのだと思うと罪悪感で胸が苦しくなる。花織は小さな声で一つの決意を口にした。

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