第11章 ただひとつだけ
秋と花織は不機嫌を露わにした表情で部室の掃除をしていた。普段2人とも我慢強い方でこのように部活中にむくれていることなど無いというのに。そして、そんな2人の様子を春奈が面白そうに見つめている。
「木野先輩も花織先輩も暗いですよー。ほら笑ってください!」
「だって……」
花織が箒を片手に口を尖らせた。その後に落ち込むようにはあ、とため息をつく。2人の機嫌がよくない理由は30分前、練習もせずに飛び出していった選手たちにあった。
本日、準決勝の相手が決まったのだが相手はフットボールフロンティア最弱の呼び声も高い秋葉名戸だった。以前雷門中学が練習試合を行い、辛くも勝利した尾刈斗中は彼らに敗北したのだという。そしてどんなチームかと思いきや、実態はメイド喫茶に入り浸るオタク集団、なのだそうだ。
そして、メイド喫茶に何か秘密がある!と目金の根拠のない自信に、何故か豪炎寺を除く全員がメイド喫茶へと向かっていったのである。
花織も秋も自分の想い人がそんなところへ向かったことが気にいらなかった。百歩譲って単純な円堂が目金について行ってしまうのは納得しようがあるとはいえ、思慮深い風丸が一緒について行ってしまうというのはどうなのだろう。抜けることはできなかったのだろうか。現に豪炎寺はくだらない、と1人御影戦で負った怪我を治療するためさっさと病院へ向かってしまったのだから。
「あーあ、キャプテンたち今頃どうしてるんでしょうね。メイドさんにご主人様、なんて呼ばれたり」
「ご主人様!?」
秋が大声を上げて顔を赤らめる。春奈は反応を見るように話しを続けた。
「風丸先輩も優しいですからねー……。メイドさんにあーん、なんてされちゃったら断れないんじゃないですか?」
「……!」
花織の動きが石にでもなってしまったかのように固まる。手から箒が滑り落ち、からからと高い音を立てた。
もし、もしそんなことがあったら……?彼がそんな風にメイドに対して顔を赤らめている様子が想像ではあるが思い浮かぶ。刹那、締め付けられるような苦しい痛みと焼け付くような嫉妬で胸が溢れそうになった。
そんなの……、そんなの嫌。