第10章 悲壮の決意
「お前は頭は良かったはずだが。……それとも、行動で示さなければ理解できないと?」
「……っ」
花織は鬼道の腕から逃れようと左手で鬼道の右手を掴んだが、やはり力の差か彼の腕は全く動かない。先ほどとは違い、花織に冷たい言葉を投げかけたときのように、感情が読み取れない鬼道に花織は微かに恐怖を覚える。……しかし、どこかで期待をしているような気もしていた。
そして半ば無理やり鬼道が花織に口づけを施そうとした時だった。
「花織……?」
「いちろうた、くん……?」
恐怖から固く閉じられていた瞼がうっすらと開く。ぼやけた視界の中に蒼髪の彼が見えた。風丸だ、間違いなく。すでにユニフォームからジャージに着替えている彼は確かにそこに立っていた。どうやら、花織を探してこんなところへ来たらしい。
「何、してるんだ」
どこか苛立ちを含むような声で風丸は2人の傍へと歩み寄る。風丸の目には鬼道が嫌がる花織を無理やり拘束している、というふうに映っていた。事実それは間違いないのだが――。風丸は花織の左手を掴む。
「悪いが……、花織は俺の大切な人だ。その手を離してくれ」
きっぱりと厳しい声で風丸が言い、鬼道を睨みつける。鬼道はそれを鼻で笑ったが、案外すんなりと花織の拘束を解除した。そして口もとに笑みを浮かべながらもどこか冷たい表情で2人を見る。
「少し話しすぎたな。……まあいい、今日の所は退散するとしよう。……月島、俺は本当にどうでもいい奴には心配など掛けたりはしない。そこにいるそいつも同じだろう。よく考えることだな」
鬼道は踵を返し、2人に対してひらひらと手を振って歩きだす。しかし、数歩進んだところで彼はその足を止めた。
「ああ、それと。……風丸だったな。……貴様だけにこの女の想いが向いていると思うな」
風丸の表情が強張る。鬼道はそれから一度も振り返りもせずに去っていった。残された花織と風丸の間に沈黙が走る。花織はそっと風丸を振り返ろうとした、その時だった。
「……!」
驚きで声すらあげることができなかった。風丸が花織の身体を近くの壁に押し付けたのだ。