第1章 それはまさに
「……はいっ!!」
思わず風丸の声に我に返る花織。ちらりと風丸の方へ花織の方へ視線を寄せればほんのりと頬を赤く染めた風丸が真摯に花織をみつめていた。その瞳は彼女のスピードに対する興味に輝いている。
「あのさ、その、もし良かったらこれからも一緒に走らないか?」
「え、でも」
私は風丸くんに全く及ばないのに、という言葉は続けることができなかった。それよりも早く、優しく風丸が微笑みかけた。
「一緒に走った方がお互いを高めあえるだろ?」
花織の方も風丸につられて微笑めば、今まで黙っていた宮坂が二人を見つめた。
「……それって俺じゃ不足ってことですか!?風丸さん!!」
風丸の言葉に宮坂が迫る。そうは言ってないだろ、と風丸が苦笑を漏らしながら宮坂をなだめる。その光景が何だか 花織にはほほえましく、くすっと笑い顔を綻ばせるのだった。
花織が風丸に負けたことで複雑な思いを抱いているのと同様に、風丸もまた花織に対して今まで感じたことのない感情を抱いていた。
女子を練習に誘うなど初めてだった。自分でもどうかしているのではないかと思うような気持ちだった。しかし不思議と花織のことが気に掛かり、しきりに視線を寄せてしまう。
今の陸上部に風丸よりも速い人物はいない。そして今、一緒に彼女とフィールドを駆けてみて思うのは、彼女の能力値の高さへの賞賛だった。おそらく男子陸上部員の中にも、彼女以上に風丸の実力に迫る者はいない。女子がこれほどのスピードを持っているなんてかなり稀だと思う。全国に通用するレベルだと言っても遜色ないかもしれない。
そして直感した、彼女となら自分を高め合って行けると。彼は謙虚な性格をしていたが、自分のスピードには自信があった。だから思った、自分のスピードに近いものを持っている花織となら良いライバルになれるかもしれない、と。先輩や同期、そして後輩でなく、同じクラスの女子に対してこんな思いを抱くのはどこか妙な気がした。
どうかしている……、風丸は胸の中で自分に対し小さく呟いた。