第10章 悲壮の決意
鬼道は花織の顔へと手を伸ばし、くっと顎を持ち上げる。そして息の掛かりそうなほどに顔を近づける。またもや彼の予期せぬ行動に花織はパニックになり、頬が熱く火照るのを感じた。
「例えば……、先日の口付けの意味だとか」
そっと鬼道が花織の顎を掴むその手の親指で花織の桜色の唇の輪郭をなぞる。彼の指が唇を這うこそばゆさに身体が揺れた。だが鬼道は口元に艶のある笑みを浮かべ、そのまま言葉を続ける。
「何故、俺がお前の携帯番号を知っているのか。……そういうことだろう?」
ゴーグルの奥から花織の瞳を覗くように見つめる鬼道の赤い瞳が花織を射抜いた。花織の目はとろんと潤み、思考も彼の囁きで停止しつつあった。知りたい……。花織は早くなる胸の鼓動を抑え、息を吐く。
鬼道の行動の意味、自分を嫌っているはずの彼の想いを。
そっと唇が寄せられる。あとほんの数センチ、そこで花織は我に返った。
私は何をしているのだろう、また一郎太くんを傷つける気なのか。
その思いが胸の中で膨れ上がると花織は自らの顎を掴む鬼道の手を振り払って彼から距離を取ろうとした。しかし、振り払ったその手を鬼道が掴む。花織が驚いて鬼道を見つめると彼は酷く痛烈な表情を浮かべていた。拒絶されるとは思っていなかったのだろうか?
「花織……!」
切なくなるような声で鬼道の口から彼女の名が零れる。花織の目が驚きに見開かれた。何故、名前を……。花織が問いかけようと口を開こうとしたが、その時花織の右腕に痛みが走った。
「……っ!」
花織の表情が痛みに引き攣る。先日修練場で打撲をしたところに彼の手が触れたために痛んだのだ。そして鬼道は花織の微かな表情な変化を見逃さなかった。
「月島、腕を見せてみろ」
眉を顰め、鬼道がそのまま有無を言わさず花織のジャージの袖口を捲り上げる。日の元に晒された花織の白い腕は痛々しい青あざといくつかの擦り傷があった。鬼道がはっと息を呑む。