第10章 悲壮の決意
できなかった、と花織が返答をしようとして言葉を止めた。スカートの中に入っている携帯が震えたのだ。普段、花織は試合中は誰かから連絡が入り、邪魔をされるということが嫌で試合時はマナーモードにしている。一瞬出るのを躊躇ったが、ハーフタイムということもあり携帯を手に取る。
「ちょっとごめんなさい」
ベンチから立ち上がり、みんなから離れて携帯を開く。見覚えのない番号だった、しかし非通知ではない。転校してから急に携帯番号やメールアドレスの登録件数が増えたために登録漏れがあったのだろうか?疑問に思いながら花織は携帯を耳に当てる。とりあえずこの場は電話に出て、相手を確認すればよい。
「もしもし……?」
髪を耳に掛けながら花織が電話口に問いかける。花織の耳に飛び込んできたのは予想外の人間の声だった。
「久しぶりだな、月島」
「!?……鬼道さん、ですか?」
衝撃に思わず言葉を失くす。しかしすぐに何とか言葉を紡ぎだした。何故、鬼道が自分の電話番号を知っているのだろう。花織の携帯を持つ手に力がこもった。
「私の番号、どうして……」
「ふっ……、驚いているようだな。それより月島、この試合が終わったらこの会場の……。そうだな、ちょうどお前のいる真正面の応援席入口へ来い」
「何故、ですか……。私に用なんて」
花織が疑問を感じながら、そして鬼道と話している緊張と胸の高鳴りから、途切れ途切れになりながら返事をすれば電話越しに鬼道が笑ったのが分かった。
「何故……?お前に会いたいから、では不足か?」
「え?」
不覚にも鬼道がさらりと発した言葉に花織の胸に甘く、痺れるような感覚が走る。花織は唇を噛んだ、そんなことを言われてしまうと心情的に断れなくなってしまう。理屈ではきっと良いように利用されるだけだと分かっているのに。
「わかりました……」
迷いながらも了解の意を示した。……大丈夫だ、こちらが不利になる様な問いには口を噤んでしまえばいい。それにこちらから聞きたいことはたくさんあるのだ。鬼道と会うことはきっと間違いでない筈だ。