第10章 悲壮の決意
「大丈夫か?」
「うん、全然平気。でもちょっと休ませて……?」
心配そうに風丸が花織の顔を覗き込めば、花織はいつものように微笑みを見せて地べたに腰を下ろした。風丸も同じ様に隣に掛ける。彼女の腕や足に刻まれた擦り傷が痛々しげだった。
風丸や円堂、あの豪炎寺でさえもボロボロになる様な練習だったのだ。元運動部とはいえ、あれは女子がこなすような練習ではなかった。明日からは花織にこの練習をさせるわけにはいかない……。風丸がそう思いながらちらりと花織の方へ視線を向けたと同時に、風丸の肩に花織の体重が掛かった。
「……わ」
咄嗟の出来事に風丸が思わず声を漏らす。寄りかかってきた花織の身体を胸に抱きとめれば、規則正しい彼女の寝息が風丸の耳に届いた。どぎまぎしながら風丸は花織の顔を見る。長い睫で縁取られた瞼も桜色の唇も閉じられている。まるで童話の中の白雪姫のようだ。風丸の顔はすぐに赤く染まる。
起こして、彼女を一刻も早く家で休ませるのがいいのか、それともここでしばらく休憩を取らせるべきなのか。混乱した思考では定まらない。そのとき、包帯のまかれた彼女の右腕が目に入った。そしてそっと眠る彼女の右腕を撫でつける。
今日、修練場で作ってしまった怪我だ。大したことはないと花織は言っていたがすっかり青痣になってしまっていた。風丸は花織の身体を抱き寄せる。だから、練習に彼女が参加するのを渋るのだ。
風丸はもちろん彼女の足の速さに惚れた部分もあるのだから、一緒に練習できること自体は嬉しい。しかし円堂がこなすような無茶で身体を壊すような特訓は、自分はともかく、彼女には避けてほしかった。花織の身体はやはり自分たち男とは違うのだ。もっと自分を大切にしてほしいと思う。
優しく腕の中に抱き寄せた彼女の瞼にキスを落とす。本当は今すぐに家まで帰した方がいいのだろうが、あともう少しだけこうして二人きりの時間を過ごしていたい。そう思った。