第9章 帝国の刺客
「花織、豪炎寺にさっき何を言われたんだ?」
伏し目がちに風丸は呟き、花織の腕をつかむ手に力を込める。いくら考えても納得がいかなかった。どうして豪炎寺が……百歩譲って帝国の鬼道が囁いて彼女が折れたというのなら、まだ納得がいっただろう。自分の言葉よりも豪炎寺の言葉を花織が聞きいれたことがどうしても風丸は気にいらなかった。今、彼女の恋人は俺のはずだ。それなのにどうして……。
「え……ああ、うん……あのね」
風丸の言葉に花織はほんのりと頬を染める。またそれが風丸の心をざわつかせた。豪炎寺の言葉に自分の恋人が嬉しそうにしているのだと思うと、我がチームのエースストライカーに対して、腹立たしいと感じずにはいられない。
「一郎太くんの気持ちくらい、汲んでやれって」
「……は?」
思わず声を漏らして、風丸は虚をつかれたような顔をする。豪炎寺の囁きにどうして自分の名前が出てくるのだろう。
「私が言うのも恥ずかしいけど……豪炎寺くんがね、『お前の恋人はお前にすり傷1つ作って欲しくないんだ』って……」
そう言葉を紡ぎだすと花織は顔を真っ赤にして俯いてしまった。人の想いを自分で口にするのは恥ずかしいことだったのだろう。今や恥ずかしさで体も頬も熱い。
風丸はというと花織の表情にきょとんと今まで不機嫌そうに歪めていた表情を緩める。言葉の意味が分かるや否や見る見るうちに風丸の頬も赤く染まった。
豪炎寺が彼女に囁いた言葉は風丸が花織に言いたかったことそのものなのだ。
彼女細く白い腕が傷つくのが嫌だった。練習だとはいえ他の男に触れられるのが嫌だった。豪炎寺はそれを代弁したのだろうか。
「花織、俺……」
「私、もし一郎太くんがそう思ってくれてるなら……って思うと嬉しくて。だって私も同じ気持ちだったんだもの」