第2章 start point
"9代目"と呼ばれていた、
60代後半くらいの男に促されるまま
葵はソファに座った。
紅い革をまとった、
座り心地の良い二人掛けソファだ。
左側から、スッと手が伸びてくる。
その手はティーカップを乗せたソーサーを
葵の目の前に置くと
そのまま視界の外へ消えた。
手の消えた方を見ると、
40,50くらいの男が立っていた。
男は目が会うと、軽く会釈をして奥の方の部屋へと消えていった。
「紅茶は、嫌いかい?」
「い、いえ!好き、です」
その言葉を聞くと、"9代目"はにこりと笑って良かった、と言った。
葵は湯気の立つティーカップに手を伸ばし、両手で口元まで運ぶ。
茶葉の味と、少し入れられていた砂糖の味が暖かく身体の中へと流れていくのを感じたあと、ほっ、と一息ついた。
「聞きたいこと、沢山あるんじゃないかい?」
目の前で、"9代目"は悪いことをした、という顔でこちらを見ていた。
「先程の銀髪の彼は、スペルビ・スクアーロ。
とある部隊の隊長でね。
彼に君を連れてきて欲しいの頼んだのだが、怖い思いはしたりしなかったかい?」
「え……す、少し…」
否定しようと思ったのだが、言葉というものは正直だ。
考えるよりも先に、葵の口からは素直な言葉が紡がれる。
「手荒なことはしないよう言ったんだが…
怖がらせてすまなかったね」
「いえ……それで、その」
「そうだね。
君を連れてきてもらった理由を説明するよ。
ただ、一つ約束して欲しいんだ」
「今から言うことは誰にも言わない。
そして、"フィクション"だと決めつけないということを」