第2章 start point
スペルビ・スクアーロの後を追って中へと足を踏み入れる。
追いついたところで、彼の背中越しに人影を確認した。
「やぁ、よく来たね」
先程までガーデニングをしていたのだろう。
軍手をはめたその人は、
柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
「ご苦労様。それじゃあスクアーロ君。
席を外してくれるかな」
返事もせず、スペルビ・スクアーロはクルリと180度体の向きを変え、葵の横を通り過ぎてゆく。
通り過ぎる際になんとなく身構えたのだが、特に何も言わず彼はエレベーターに乗り込み姿を消した。
「空街 葵ちゃんだったね。
よく来てくれたね」
エレベーターから視線を外し、
葵はその声の主の方を見た。
白いシャツ、グレーのズボンを履き、
靴は革靴を履いている。
ー9代目
先程、スペルビ・スクアーロが
この人に向かって使った呼称。
何かの企業か、どこかの国の偉い人なのか。
現時点で言えるのは、このような高級ホテルの最上フロア全てを私物化できるほどのお金を持ち、且つ"9代"も続く伝統的な"なにか"のトップの人であるということだけ。
そしてそう考えられるくらい
目の前の御老人の笑顔は優しく、
葵の心を落ち着かせるものだった。