第26章 風邪っぴき
「...ただいまー。」
家のドアを開け、玄関でそう言ってみるが、返事は帰ってこない。
当たり前だ。
虹村さんたちにはこの家に二人暮らししているように言ったが、実際にはこの家には一人の人間しかいないのだから。
虹村さんの家は明るくて暖かくて優しい色に包まれていた。
眩しすぎる家だった。
私には、暗くて暑くてじめじめしたこの家がお似合いだ。
靴を脱いで、自分の部屋に入る。
電気を点けて写真立ての中の写真に向かって微笑んで話しかけた。
「帰ってくるといいね、だって。そんなこと出来るわけないのに、ねぇ?お母さん。」