第26章 風邪っぴき
「分かってるよ、そのくらい。」
「分かってんなら行動に移せ。口だけじゃ、何の意味もないからな。」
「うん。」
厳しいことを言ってくる虹村さんは今どんな顔をしているのだろうか。
私の方からじゃ、何も見えない。
そして私はきっと今、冷めた顔をしているのだろう。
みんなが言うことも、虹村さんの言葉も正論なのは分かっている。
頭では理解している。
それでも私の気持ちは冷めたままで着いていかない。
正論を受け止めるほど、余裕のない小さな器しか持ち合わせていないから。
いつか私は、前に進むことが出来るだろうか。
もう随分と長いこと、立ち止まっている気がする。
「...虹村さんはもし、お父さんが死んだとしても前に進み続けることができる?」
「うーん、難しい質問だなぁ。...ちょっと立ち止まっちまうかもな。親父にはずいぶん世話になったし。」
「そっか。...虹村さんは、強いね...。」
「ん?なんか言ったか?」
「ううん、何でもない。」
虹村さんの首元に顔を埋めた。
「ほら、着いたぞ。」
「ここまでありがとうございました。」
「おう!」
私のマンション前に着く頃には、オレンジに輝く夕日は水平線に沈んでしまい、暗くなっていた。
虹村さんは部屋の前まで送ると言ってくれたが、私が遠慮したのだ。
「明日、待ってるからな。」
「うん。」
「遅れんなよ。」
「うん。じゃあ、また明日ね。」
「じゃあな!」
虹村さんに手を振って別れる。
虹村さんが小さくなるまでマンション内に入ることをせず、虹村さんが見えなくなってから入った。