第26章 風邪っぴき
「...じゃあ俺は行くよ。虹村さんには黙っておくからちゃんと安静にして、明日元気な姿が見られることを楽しみにしているよ。」
「うん。ばいばーい。」
ベッドに座って赤司くんに手を振って見送った。
赤司くんと保健室に戻る途中の廊下で話をした。
部活のことだけだったが、赤司くんは本当にバスケが好きなんだなあ、と話をしていて伝わってきた。
夢中になれるものがあっていいなあ、と羨ましさと同時にやってきたのは、不安。
この先どういうことになるのか知識としてだけは頭に入っているが、それでも、みんなが、赤司くんが壊れていってしまうことに不安だけが押し寄せる。
それについて何か行動を起こす訳でもない。
私はきっとつらいだろうが、見ているだけしか出来ないのだろう。
「もう、止まっちゃえばいいのに。」
ベッドに背中から勢いよく倒れ込む。
「何が止まっちゃえばいいんだ?」
突然の声に驚いて体がビクつく。
でもすぐに冷静になって、体勢をそのままに目線だけを声の方に向けた。
「...虹村さん。自主練終わったの?速かったね。」
視線の先に居たのは制服を着た虹村さんだった。
「おう!...さ、帰ろうぜ。」
虹村さんは笑ってベッドの前に背中を向けてしゃがんだ。
どうやら行きと同じように私をおぶってくれるらしい。