第26章 風邪っぴき
誰もいない廊下を歩く。
階段の前に来て、上ろうかどうか迷ったが上らないことにした。
そのまま真っすぐ進むと、体育館に続く入り口がある。
でも私はこの先には進めない。
「柏木?」
私の名前を聞き覚えのある声で誰かが呼ぶ。
「赤司くん。...と、緑間くん。」
「俺をついでみたいに言うんじゃあないのだよ!」
「体調はもういいのか?」
「たぶん。」
振り返る前に私を呼んだ人の名前を言い当て満足したが、振り返った先にもう一人居たことに気付いて慌てて名前を付け足した。
付け足された相手は怒っている。
それを聞き流し、冷静に私に問いかけてくる人。
二人に対する私の態度に温度差があるのが可笑しくてついつい口元に笑みが浮かんだ。
「赤司くんと緑間くんは何してるの?」
「俺たちはコーチに報告をしてきたところなんだ。柏木は何をしていたんだ?」
「...秘密の探検。」
何をしていたんだ、と聞かれ、首を捻って数秒考える。
そして迷うことなく、今もまさに実行中のことを二人に伝える。
「なんなのだよそれは。」
「虹村さんに保健室抜け出してることがばれたら怒られちゃうの。」
「じゃあ早く戻るのだよ。」
「やだ。」
「なっ?!」
緑間くんの眉間にしわがすごい。
でも、緑間くんが本気で怒ってもきっと怖くない。
だって口調が面白いんだもん。
あの口調が直らなきゃ、いつまでたっても緑間くんは怖い存在ではなく、うるさい存在であるのだろう。
「柏木。」
ぎゃんぎゃん私に説教する緑間くんとは対照的に、赤司くんは静かで、そして強かな声を発する。
「なに?」
「俺が送るから一緒に保健室まで戻ろう。」
「...うん。」
緑間くんに何を言われても心が動かなかったのに、赤司くんに一言言われると、すっと心に入ってきて頷いてしまう。