第26章 風邪っぴき
「虹村さんは自主練しなくていいの?」
「するする。ちょっとオメーのことが心配で見に来ただけだって。」
じゃあ、すぐに行っちゃうのか。
もっと居て欲しかったなぁ。
「そんな顔すんなって。今日俺がここに戻ってくるまで帰るんじゃねぇぞ。」
私の頭を撫でて、子どもをあやすように私と目線を合わせ、屈んでそう言った。
「うん。」
頷くと、虹村さんは笑って、虹村さんの手が頭から離れた。
そして、この部屋で私は再び一人になった。
「なに依存してるんだろ...馬鹿みたい」
一人、そう呟く。
ベッドから降りて窓の外を見る。
ここから見える景色なんてなんてことないものだけれど、この真っ白な室内でじっとしているよりはマシだから見る。
「ほんとね...」
また一人で呟く。
さっきの呟きの続きなのか、はたまた違うのか。
私にでさえ、分からない。
「帰らなきゃいいんでしょ?帰らなきゃ。抜け出すくらい、いいよね?」
今日は制服ではないけれど、ここで虹村さんの帰りをじっと待つのもつまらない。
体調も良くなったはずだから、虹村さんにさえ見つからなければ怒られることもないはず。
電気もエアコンも付けたままドアを閉めた。
「なんだか悪いことしてるみたい...ふふ」
一人、笑いながら電気の付かない廊下をふらふらと歩いていく。