第26章 風邪っぴき
「...落ち着いたか?」
「うん。」
柏木が目を真っ赤にして鼻をすすって頷く。
顔をあまり見せたくないのか俯いている。
「ほら、目擦んなって。これ以上擦ると腫れるぞ。」
柏木の目を擦る手を掴んだ。
「今日は泣き虫だなぁ、オメー。」
「悪い...ですか?」
「いや、たまにはこういっぱい泣ける日があった方がいいと思うし悪かないよ。泣くことは別に悪いことじゃないから今日はいっぱい泣いとけ。」
俺がそう言うと、柏木の目に再び涙が溜まっているのが見えた。
「虹村さんが泣けって言うから悪いんだ。私がこんなに泣くのは虹村さんのせいだ。」
目に涙を溜めながら、それを流すまいとしながら俺の顔を涙目で睨んでいる。
普段こんな柏木を見ることがないから新鮮に感じた。
そんな柏木の頭に手を乗せ、ポンポン軽く叩く。
そうしてやると、柏木の目から涙が溢れた。
今度は目を擦るでもなく、俺の胸にすがりつくのでもなく、ただただ窓の方をじっと真っすぐ見て泣いていた。
由良side
「落ち着いたか?」
虹村さんのその言葉を聞くのは何回目だろう。
自分でもなんでこんなに涙が溢れて止まらないのか分からない。
でも虹村さんがたくさん泣けって、泣いていいって言ったから、それから涙が止まらなくなった。
虹村さんが私に優しくしてくれたから、だから、安心したんだと思う。
「ん。...そ、いえば、部活は?」
「うん?あー、もう終わって、みんな体育館で自主練してる。」
虹村さんの言葉で、もうそんなに時間が経っていたのかと驚く。
壁に掛けられた時計が、もう部活の終わっている時間だと証明している。