第26章 風邪っぴき
虹村side
ハッとして我に返った。
視線の先には耳を塞いで震えている柏木が居る。
「わりぃ...ついカァっとなっちまった。」
完全に俺の心配を柏木にぶつけただけのただの八つ当たりになってしまった。
震える柏木を抱きしめて頭を撫でてやる。
「悪い。ほんとに今のは俺が悪かった。」
謝罪の言葉を掛けながら。
しばらくは怯えるような目で俺を見ていたが、こんな状態にさせてしまったのは俺なので根気よく、柏木が落ち着くまで続けた。
「...怒ってる?」
「お。やっと口聞いてくれるようになったか。」
柏木は俺の腕の中で数分間、声を殺して泣いていたが、ようやく落ち着いたのか鼻声だが声を発してくれるようになった。
「怒ってねぇよ。」
「...なんで、怒鳴ったの?」
「怒鳴るつもりなんてなかったんだよ。でもいざオメーの顔見たら怒鳴ってて俺もびっくりだ。」
本当に俺自身驚いた。今も反省中だ。
「私のこときらい?」
「嫌いなわけないだろ?嫌いだったらこんな怒鳴らねぇし世話なんか焼かねぇって。」
納得出来てないのか、柏木は俺から視線をずらし、カーテンの開いた窓の方を見ていた。
その目には涙が溜まっていて、今にも零れそうな勢いだ。
「泣きたいときは泣いていい。ほら、ここ濡らしていいから。」
必死に泣くのを我慢しているようなその様子に俺は再び柏木の頭に手を乗せた。
そこから一気に流れ落ちる。
柏木は俺の服を掴み、さっきと同じように声を押し殺して泣いていた。
この室内には柏木の息遣いと鼻を啜る音だけが聞こえる。
それ以外は物音一つ聞こえない。