第26章 風邪っぴき
私が次に目覚めた時、眠った時には居なかった人がそこに居た。
虹村さんがベッドの横にある丸椅子に座って寝ている。
寝る前と変わったことといえばもう一つ。
窓が閉まっていて、室内がほんのり涼しい。
クーラーを消す前のあの冷蔵庫の中みたいな寒さではなく、木陰で休んでいる時に吹く風の、あの涼しさ。
人工的に作られた寒さじゃなくて自然的な涼しさがこの室内には漂っている。
「...やべ、寝ちまった」
静かな室内に突然声が響く。
声がした方を振り向くと、立ち上がり伸びをしている虹村さんが居た。
そんな虹村さんと目が合ってしまい、声を掛けた。
「...お、おはよう?」
「オメーなぁ、おはようじゃねぇよ!」
虹村さんの突然の大声に固まってしまった。
「ここ来たら窓は開いててすっげー暑いし、オメーは布団に包まって汗かきながら寝てるしで死んでるかと思ったわ!」
虹村さんの声が、言葉が、両耳から入ってきてその耳を両手で塞いで虹村さんから目を逸らす。
虹村さんが私に怒る理由が分からなかった。
何故怒られなければならなかったのか分からなかった。
だから耳を塞いだのだ。
虹村さんの怒声を聞きたくなくて、言葉を聞きたくなくて。