第26章 風邪っぴき
「おい、お前たち、いつまで遊んでいるつもりだ。もうすぐ練習始まるぞ。」
ドアが開けられ、そこに腕を組んで仁王立ちする赤司くんがいる。
後ろには緑間くんもいる。
「柏木も何やってるんだ。早くベッドに戻れ。」
なんだか機嫌が悪い気がする赤司くんが私にそう言った。
赤司くんのその雰囲気をみんなも感じ取ったのかいそいそと部活に行く準備を始める。
みんなが空の弁当箱を持って出ていく中、私の隣に座っていた虹村さんだけは焦った様子もなく、しかし俊敏な動きでトランプを片づけていく。
私はただその様子を座って見ていた。
「柏木。」
「なに?」
「さっきからぼーっとしてっけど平気か?」
虹村さんが私と目線を合わせるようにこちらを向いている。
ぼーっと...?わたしが?
ぼーっとしていた自覚は特になくて、正直にそれを伝えた。
「うん、平気。」
「そうか?...でもまあ、念のため、だ。」
虹村さんに頭を撫でられ、そのあとすぐに体が浮いた。
浮いたと思っていたのは別に勘違いではない。
虹村さんが私を抱っこしてくれていたことに気付くのに数分の時間を要した。
「なんで...?」
「オメー無理するとこあるじゃん。平気とか言っときながら本当は全然大丈夫じゃなかったら俺が困る。」
私が座っていたところからベッドまでの距離はそんなにないけれど、心配してくれている虹村さんのその気持ちが嬉しかった。
ベッドの上に降ろされ、布団を掛けてもらう。
「大人しく寝てろよ。また来るから。」
そう言うと虹村さんは行ってしまった。
さっきまで賑やかだったこの場所はあっという間に元の静かな場所に戻ってしまった。