第26章 風邪っぴき
みんなそれぞれお弁当を広げて食べている。
室内に色んな匂いが混ざる。
私はお弁当を食べるみんなを見ながら、布団の上でひたすら大根をかじっていた。
お弁当には虹村さんの言っていた通り、昨日のはちみつ大根とたこさんウインナー、卵焼き、おにぎりが入っていた。
「由良ちんのウインナーうまそー。」
「...たこさん、食べる?」
「いいのー?ありがとー。」
紫原くんが寄ってきて、たこさんウインナーを一つ持っていった。
私も大根を齧るのを止めてたこさんウインナーを口に入れた。
味はしないが、なんだかおいしく感じる。
どうしてだろう、と考えながら卵焼きにも手を付けてみる。
これもおいしかった。
味はしないはずなのにどうして...。
首を傾げていると、頭の中から声が聞こえてきた。
『気持ちが籠ってるからじゃないの?』
得体の知れない誰かの声じゃなくて頭の中にみさきなでしこの声が響いてくると安心する。
『...気持ちが籠ってる?』
『そうよ。それだけあのお母さんが由良のこと大事に思ってるってこと。』
『大事に思ってる?わたしを?』
『由良は意外と周りに愛されてるんだから自信持ちなさいよ。』
愛されてる...?頑張らないと、手に入らないものじゃ、なかったの?
「柏木?」
名前を呼ばれたことによって現実に引き戻される。
「どうした?食事の手が止まってっけど、もうダメか?」
「ううん、ちがう。」
虹村さんが私の顔を覗き込んでいる。
虹村さんの問いに私は首を横に振ってお弁当を食べ始めた。
「急に動かなくなるから心配したぞ。」
「...ちょっと、ぼーっとしちゃった。」
「あんま心配かけさせんなよ。」
頭を撫でられる。
「うん。」
私は止まっていた手を動かし、再び食べ始めた。