第26章 風邪っぴき
「とりあえず熱上がってんだったら冷やすか。」
「ちょっと待ってください虹村さん。柏木、寒気は?」
「さむけ...」
赤司くんに言われていることが分からなくて言葉を繰り返す。
さむけ...さむけってなんだっけ。
「...さむい。」
私はそう言って布団を被った。
「寒いなら冷やさないほうがいいのか?」
「そうですね。寒気が収まってからのほうがいいです。」
ふとさっきのことを思い出して一番近くにいた赤司くんに手を伸ばすと、それに気づいた赤司くんが私に声を掛ける。
「どうした?」
「...ゆびきり、って指切らなくていい?」
「子どもが約束をする時のような一般的なものは当然切らないよ。」
「...よかった。」
赤司くんは一瞬戸惑ったような顔をしたけど、私の不思議な問いにちゃんと答えてくれた。
「にじむらさんとした指切り、わたしの知ってるのと違ったから...。」
「虹村さん、柏木と指切りなんてしたんですか?」
「なんてってなんだよ。なんてって。」
赤司くんの言葉で口を尖らせる虹村さん。
「あひる。」
「ん?あひるがどうした?」
つい口から無意識に出た言葉を虹村さんに尋ねられて困ったけど正直に答えることにした。
「...にじむらさんの口、あひるみたいだなって。思った。」
「あー、口尖るとあひる口ってよく言われるわ。でも無意識にやってることだからコントロールできねぇの。」
拗ねる虹村さんを見てかわいいと思ってしまった自分に戸惑う。
かわいいってなに...?
「あー、もう寝てろ!」
視線を虹村さんに送りすぎたのか、拗ねた虹村さんはいきなり起こり出して私を布団の中に押し込んだ。
「そういえば、柏木のお昼はどうなっているんでしょうか?」
赤司くんが未だ機嫌の悪い虹村さんに聞く。
「...それなら俺預かってる。あそこに置いた。」
虹村さんが指差した先には保健室の先生が使うであろう机が。
「おふくろが昨日食べたはちみつ大根とあとたこさんウインナーと色々弁当に詰めてた。食べきれない分は俺食べるし。」