第26章 風邪っぴき
「いい子にしてろよー。じゃあな。」
虹村さんが保健室から出ていった。
指切り、初めてやった...。
自分の小指を見ながらしみじみ思う。
さとりんに昔指切りについて聞いたことがある。
そうしたら...
『めっちゃ愛し合った男女がお互いの小指の第一関節を切って、それをそれぞれ相手に渡すんや。それでな、ずーっと一緒にいようて約束したんやて。で、どっちかが裏切ったら小指に込められた念で裏切りもんの奴を殺すいう話があるんや。だから指切り拳万する時は気ぃ付けなあかんよ。』
と言われた気がする。
私、かなり気軽に虹村さんと指切りしてしまったような...。
虹村さんのことは好きだけど、でもそんな愛し合ってるってほどじゃないし、小指、切るの痛そう...。
突然寒気がした。
さとりんの話はきっと作り話なんだろうけど、もし本当の話だったらどうしよう。
寒くて寒くて布団を頭から被る。
さっきは得体の知れない恐怖に襲われたが、今度はまたそれとはまったく違った恐怖が私を襲ってきた。
さむい。
どこかのドアがガラガラと開く音がする。
そして話し声も。
「あー、ここ涼しー」
「いやー、着いてきて正解っスねー」
「黄瀬、うるさいぞ。」
「柏木さんが起きてしまいます。」
はっきりと聞こえる声に目をうっすら開けて見てみた。
見覚えのあるカラフルな頭がぼんやりと見える。
そしておでこにあったかい手の感触。
「起きてっかー?」
「寝てるのかもしれませんよ。無理に起こさない方が...。」
「うす目開けて?きもっ。」
ぼんやりとした頭で割と近くから聞こえる言葉を考える。
自分のおでこに乗っている手に自身の手を重ねてみた。
「お?」
何度か瞬きを繰り返してはっきりした視界を取り戻す。
最初に見えたのは、虹村さんのこちらを覗き込む顔。