第26章 風邪っぴき
「いかないで。...わたしをひとりにしないで。」
ドアから出て行こうとする人たちに手を伸ばす。
こわいよ。ひとりはいや。
さっきまでなかった恐怖感に襲われて涙が頬を伝う。
「どしたー?」
虹村さん以外の人はドアから出て行ってしまったが、虹村さんはこっちに来てくれた。
そして優しく頭を撫でてくれる。
「...こわい。」
「こわい?何が?」
虹村さんはいつか私の前からいなくなるのに。
わたし、どうしてこんなに。
『どうしてその人にそんなに執着してるの?』
「...やめて。いわないで。」
耳を両手で塞いで目を瞑る。
「...い.....おい、柏木!」
名前を呼ばれ、そっちを向いた。
「にじ、むら、さん。」
「ほんとどうした?」
虹村さんがいつの間にかベッドに座っていて、私を抱きしめてくれていた。
言っていいものか迷っていると、続けて言われた。
「言いたくないんならいいから、今は治すことだけ考えろ。な?」
その言葉に素直に頷き従う。
「じゃ、俺部活あるし行くわ。」
「...また、くる?」
「おう。来る来る。来るから大人しく布団入っとけって。」
「ほんとに?」
「信用ねぇなぁ...。」
あ、嫌われたかな。
虹村さんの呆れた声を聞いて弱気にそう思ってしまう。
「じゃあ指切りしようぜ。」
でも虹村さんから返ってきた言葉は想像とは全然違うものだった。
指切り...って、あの?
「ほら、小指出せー。」
言うとおりにする。
「ゆーびきーりげんまーん、うそついたらはりせんぼんのーます、指切った。」
これが指切り...私の知ってるのと違う...。
「これで約束破ったら俺に針千本飲ませていいからな?」
虹村さんは言ってることは物騒だけど笑顔でそう言った。