第26章 風邪っぴき
「失礼します。」
職員室に入ると、数人しかいない先生が全員こちらを向いた。
「...すずしい。」
息を少し吐いてから、小さい声で呟く。
校舎に入った時のひんやり感とは全然違う涼しさ。
冷房の効いた室内は寒いくらいに涼しかった。
虹村さんは目当ての人を見つけたらしくそちらに歩を進める。
「監督。おはようございます。」
「おはよう。虹村、と柏木かな?」
「はい。それで、相談したいことが...」
「ここじゃあなんだし、移動するか。」
監督に言われて職員室からとりあえず出た。
「柏木、具合はどうだ?」
「...良くなった。」
「昨日よりはな。でもまだ熱下がってないだろ。」
虹村さんに反論されて少しむかついて、ぎゅっと首に巻いた腕を絞めた。
「おまっ、ほんとに止めろ!オメーまじで変なところで力強くなんだから止めろよな。」
私たちは今、中庭にいた。
監督いわく、ここは職員室ほど寒くなくて校舎ほどひんやりしていないが、日影が多く風が気持ちいい監督おすすめの場所だそうで。
監督は隣で笑っていて何も言わなかったが、虹村さんには結構怒られた。
冗談半分でやっただけだったらから、想像以上に怒られて少しへこんだ。
「にじむらさんのおに。」
「あ?」
虹村さんがこっちを睨んでくる。
でも大して怖くない。
慣れちゃった...?
「ところで薬は飲んだのか?」
「あー、こいつ薬飲めないらしくて飲んでないです。」
「飲めない、とは?」
監督が深く聞いてくる。
監督は私の過去を知っているようだからきっと察しがつくのも早いだろう。
案の定、虹村さんが理由を話すと私を一瞥してから理解したというように頷いた。