第26章 風邪っぴき
「にじむらさんの、におい...。」
変なことをしている、という自覚はあまりない。
頭の中に響く声が何か言っているが聞く耳を持たない。
『へんたい。』
「ちがうもん。」
知っている人の匂いを嗅ぐとなんだか安心するからと自分に言い訳をする。
私は今、虹村さんの寝ていた布団の掛け布団を抱き枕のように抱えてそこに顔を埋めている。
私が寝ていたベッドより虹村さんの匂いが強くていい。
「何してんの?」
虹村さんが部屋に帰ってきたらしい。
「あそんでた。」
「病人が何やってんだよ。」
「今は元気だもん。」
「元気だろうがなんだろうがオメーは今熱があんの。」
そう言いながら渡されたのは体温計。
それを渡した後、虹村さんは後ろを向いた。
ピピ
数分して音が鳴る。
パジャマのボタンを閉めてから虹村さんの肩を叩いて体温計を渡す。
「お。下がってんじゃん。」
「ふーん。」
「興味ないのな。...でも下がってるからって油断すんなよ。オメーは意外とじっとしてらんないみたいだから。言われねぇ?」
「...知らない。」
そんなの知らない。言われたことない。
じっとしてられないのは多分虹村さんの前だけだよ。