第26章 風邪っぴき
「柏木、そろそろ寝ないか?」
時間を見てそう言う。
「やーだ。」
「俺明日も部活あるんだけど。」
俺がそう言ったら柏木は背中に回していた手を外してくれた。
柏木の顔はちょっと拗ねているような寂しそうな。
でもなんだかまだ何かありそうな顔をしていたが、俺は早く寝たかったために何も聞かずベッドから降りた。
そして電気を消すため立ち上がる。
「柏木、電気消すから早く布団入れ。」
「...わたし、トイレ行ってくるから先、寝てて。」
「あ、うん。」
柏木がトイレにと部屋から出て行ってから電気を消した。
由良side
廊下は暗くてトイレの場所もよく分からなかったが何とか見つけて電気を点ける。
別にトイレ目的で来たわけではないが、とりあえず入る。
「もう、きこえない。」
頭の中に響く声はもう聞こえなくなっていた。
虹村さんのおかげかもしれない。
虹村さんは優しい。下に小さい弟と妹がいるから面倒見も良い。
私にも優しくしてくれるいい人。
でも、あの人はいつかいなくなる人なんだと忘れてはいけない。
「わたし、にじむらさんから離れることができるのかな...。」
一人、呟く。
『出来るよ。』
ただ呟いていただけなのに、さっきとは全く違う声が聞こえてきた。
さっきとは違って怖くない声。
「万華鏡...。」
『あんな人、居なくたって由良はちゃんと出来ます。』
「...どうして、そう言えるの?」
『俺たちがいるじゃないですか。』
「...その、俺たちには誰が含まれるの?」
『俺とみさきなでしこ。と言いたいところですが、由良を思ってくれている人なんていっぱいいるんですよ?』
「...わたしを思ってくれるひとがいっぱいいる?」
信じがたい言葉が聞こえてきて思わず繰り返す。