第26章 風邪っぴき
「柏木、話聞いてやるから何でも話していいぞ。」
そう俺が言うと、困った顔をされた。
さっきから俺の手を掴み、マッサージのようなことをしてくれているようだが、正直あんまり気持ちよくはない。
不快でもないが。
「...じゃあ、さっきの声のこと、教えてくれよ。なにが聞こえた?」
「...っ...。」
俺が声のことを聞くと、動きをピタッと止めて固まった。
そして首を横に振る。
「...それは、はなさない。」
「なんで?」
「...なんでも。...女の人の、こえ、で、怖いことばっかり言う。」
「それははっきり聞こえるもんなの?」
柏木は首を今度は縦に振った。
「...オメーも色々大変だなぁ。...じゃあ、なんで俺が死んだと思ったのか教えろよ。俺が死ぬ悪い夢でも見たのか?そういや、合宿でもおんなじようなこと言ってたな、オメー。」
「...夢なんて、見てない。夢じゃ、ない。にじむらさんが、あの人とかさなって見えて死んだんじゃないかっておもっただけ。」
「あの人?誰?あの人って。」
「...きっと今でもわたしのこと、嫌いだから、だからわたしを**そうとするんだ。わたしが、なにもしなかったから。」
柏木が泣き出した。
俺の背中に手を回して俺の胸に顔を押し付けて声を抑えて泣いている。
俺は柏木が落ち着くまで背中を同じリズムでポンポン叩いていた。
大分落ち着いてきた頃に、背中に回されていた手を無理に外そうとしたが、無言の柏木は力が強く外せなかった。
「なんでオメーはこんな時に力が強いの。」
「...つよくない。」
「普段は弱いくせに。」
「...にじむらさんがつよいだけ。」
「あ?」
柏木の声は俺の体に顔を押し付けているせいかくぐもって聞こえる。
でも柏木はこの体勢が良いらしく俺はあんまりコイツを刺激したくなくてそっとしておいた。